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東京高等裁判所 平成元年(ネ)4485号 判決 1990年6月27日

控訴人 株式会社 アルファー企画

右代表者代表取締役 浦山英朋

右訴訟代理人弁護士 伊東正勝

同 松坂祐輔

同 空田卓夫

被控訴人 有限会社 手塚製本所

右代表者共同代表取締役職務代行者 飯塚勝

右代表者共同代表取締役 岩崎和夫

被控訴人補助参加人 手塚勝

被控訴人補助参加人 手塚梅子

右両名訴訟代理人弁護士 田中旭

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用(参加費用を含む)は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取消す。

2  被控訴人は、手塚勝名義の被控訴人の持分六〇〇〇口及び手塚梅子名義の被控訴人の持分六〇〇〇口につき、控訴人への名義書替えをせよ。

3  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

本件控訴を棄却する。

第二  当事者双方の事実の主張は、次ぎのとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決書三枚目表九行目「原告は、」から同一〇行目「補助参加人勝に対し、」までを「控訴人は平成元年一二月二八日に到達した内容証明郵便により、被控訴人共同代表者両名に対し、」に改める。

2  原判決書三枚目表末行「なお、」から「したがって、」までを削り、同枚目裏二行目末尾に「控訴人は持分の譲受人であるが、有限会社法一九条四項後段が準用する商法二〇四条の二第一項が譲渡人から会社に対し譲渡承認を請求しうる旨規定しているのは、別に譲渡承認請求を譲渡人に限定する趣旨ではないというべきである。すなわち、譲受人の投下資本のスムースな回収を保障するという観点や会社としては譲渡を承認したくなければ譲渡の相手方を指定すれば足り、譲渡人からの譲渡承認請求を認めても会社にとって格別の支障がない点を考慮すれば、譲受人からする譲渡承認請求も認める趣旨と解すべきである。」を加える。

3  原判決書三枚目裏七行目の「したがって」を「控訴人は、平成元年四月二六日にも被控訴人の代表者としての被控訴人補助参加人勝に対し、本件持分(1)、(2)の譲渡を受けた旨の通知をしており、」に改め、同八行目中の「知悉していたことになるから、」の次に「本件においては控訴人から被控訴人に対する譲渡承認請求はそもそも不要であったというべきであり、」を加える。

4  原判決書四枚目表七行目中「(1)の事実は、知らない。」を「(1)の事実は認める。」に改める。

5  原判決書四枚目表八行目末尾に「持分譲受人からの譲渡承認請求を許すならば、持分譲渡が有効になされた場合にだけ譲渡承認請求がなされるとは限らず、本件のように持分譲渡の事実自体についてその直接の当事者間において争いのある場合にまで、会社が社員総会において譲渡承認あるいは譲渡の相手方の指定等の必要な手続きを取らなければならず、法律関係の安定を著しく阻害する。持分譲渡の直接の当事者でない会社が本件訴訟のように譲受人との間で譲渡の事実の有無の確定を図らねばならないというのも不合理である。」を加える。

5  原判決書四枚目表一一行目末尾に「有限会社法一九条三項は、持分譲渡承認請求の事実を客観的に明確にするため、承認請求は所定事項を記載した書面によることを求めているのであり、持分譲渡人ないしその代理人がたまたま会社の代表取締役であったからといって別異の取扱いを認めるべきではない。」を加える。

第三  《証拠関係省略》

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  本件は有限会社の社員の持分を譲り受けたと主張する控訴人が有限会社である被控訴人に対して当該持分につき控訴人名義の書き替えを求める請求である。そして、控訴人は被控訴人に対し、平成元年一二月二八日に被控訴人に到達した内容証明郵便により、控訴人が本件持分(1)(2)の譲渡を受けた旨通知するとともに、社員総会において右譲渡の承認をすべき旨並びに承認しない場合には、譲受けの相手方を指定すべき旨請求したが、被控訴人は譲渡を承認もしくは譲渡の相手方を指定することなくして、譲渡の相手方を指定すべき期間を徒過したので、被控訴人は本件持分(1)、(2)の譲渡を承認したものとみなされ、控訴人は被控訴人に対する関係でも本件持分(1)、(2)の権利者である旨主張し、平成元年一二月二八日に控訴人の主張する内容の書面が被控訴人に到達した事実は当事者間に争いがない。しかしながら、控訴人は社員ではなく、社員の持分を譲り受けた者であるというのであるから、有限会社法一九条三項に定める譲渡承認の請求をすることはできず、控訴人のした請求は適法な請求とはいえない。したがって、被控訴人が控訴人からの右請求に対し譲渡の相手方を指定する等の対応をしなかったからといって社員総会の承認があったものとみなされることはないというべきである。

控訴人は、有限会社法一九条三項及び同条四項が準用する商法二〇四条の二において譲渡承認の請求をなすべき者を社員ないし株主と定めているが、これらの規定が社員ないし株主を請求権者としているのは別に制限的な趣旨と解すべきではなく、むしろ譲受人の投下資本のスムースな回収の保障という観点から、また譲受人からの請求を認めても会社としては譲渡を承認したくなければ譲渡の相手方を指定すれば足りることで、会社にとって格別の負担や支障がないことから、譲受人からの承認請求も許していると解するのが妥当であると主張するので、この点につき、当裁判所の判断を示しておく。控訴人の主張するところは、譲渡人と譲受人との間に譲渡の有無ないしはその効力について争いのない場合には、譲渡人にとっても会社にとっても格別の支障はないと考えられ、控訴人のいうような便法を認めても問題はほとんど生じないであろうから、その限りではもっともなところもある。しかしながら、一般的に広く譲受人から譲渡承認請求を許すならば、持分譲渡が有効になされた場合にだけ譲渡承認請求がなされるとは限らず、本件のように持分譲渡の事実自体につきその直接の当事者間に争いのある場合にも譲受人からの譲渡承認請求がなされることを予想しなければならず、このような場合にまで、会社が社員総会において譲渡承認あるいは譲渡の相手方の指定等の必要な手続きをとらなければならないとすることは、会社に対して不必要な手続きを強いるものであることを考えに入れておかなければならない。つまり、譲受人単独での請求を認めるということは、譲受の主張さえあれば足りることになるから、極論すれば、譲り受けたとさえいえば誰からの請求でもいいということになってしまうことを考えるべきである。法が社員ないし株主から承認請求をすべきものと定めたのは、そうした点をも考慮すると、決して無意味な規定ではないと考えられる。ことに株券が発行されている株式会社の場合にあっては、株券の所持者を権利者と推認してよいから、株券を所持して譲受人であると主張する者の請求に限定するということも考えられないではないが、有限会社の場合には、このような手段がなく、譲渡承認請求をした譲受人が真実の譲受人であるか否かは会社にとっては一般に容易には判断し得ないことがらであることも指摘しておくべきであろう(なお、法は競売、公売による取得者からの請求を認めているが、これは譲渡人の協力が期待できない反面取得者の権利の証明が確実かつ容易であることによるものであり、譲受人からの一般的請求を是認する根拠にならないことを附言しておく)。さらに、控訴人は、もし譲受人からの請求を認めないと、譲受人は譲渡人との訴訟で譲渡の効力を確定した上で重ねて会社に請求するという二度手間を要するというが、譲渡人との紛争は譲受人の責任で解決するのはやむを得ないところである。それを避けるために譲受人からの請求を認めるべきであるというのは、紛争について責任のない会社に余分な判断を強い、場合によっては、本件のように訴訟の相手方になるという負担を負わせる結果となるものであって、正当な論拠とはいえない。このような諸点に鑑みて、明文の規定に反してまで譲受人からの譲渡承認請求を認めるのは相当でないというべきである。近時の学説には控訴人の主張にそうものもあるが、これらは以上に指摘したような問題点の検討が十分なされておらず、投下資本の回収の便宜を強調しすぎているように思われ、当裁判所の採用するところではない。

三  控訴人は、さらに本件持分(1)、(2)の譲渡当時その譲渡人並びに譲渡人の代理人であった手塚勝は被控訴人の代表者であったものであり、このように社員持分の譲渡人もしくはその代理人が会社の代表者を兼ねているような場合には、会社はその譲渡の事実をすでに知っているのであるから、改めて譲渡人から譲渡承認請求をする必要はなく、譲渡の日から二週間内に譲受けの相手方の指定をしなかった以上、社員総会の承認があったものとみなすべきである旨主張するが、有限会社法一九条三項が譲渡承認請求につき所定の事項を記載した書面によることを求めているのは、持分譲渡承認請求の事実を客観的に明確にして法的安定を図る趣旨であるから、たとえ譲渡人が会社の代表者であってもこれを省略する取扱いを認める根拠はない。控訴人の主張は採用できない。

四  以上のとおりであるから、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上谷清 裁判官 亀川清長 裁判官小林亘は転任のため署名押印できない。裁判長裁判官 上谷清)

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